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2009.09.08

禁断の書と出家の偶然

私には絶対に手を出してはならぬ禁断の書というのがありまして。読み出したら止まらない、体調不良と嘘ついて仕事休んででも没頭してしまう危険な麻薬のようなハマリ度の高村薫さん。まとまって時間を作れるときでないと、彼女のいずれの作品も手が出せないんです。
私が初めて高村作品を読んだのは『照柿』、94年新刊時に偶然新聞の見出しかなんかで見つけて図書館で借りて、気に入って結局単行本買って。合田シリーズ2作目だったので第1作の『マークスの山』を続けて図書館で借りて、文庫で初期作品なんかを買って・・・『神の火』でドツボにはまる、と。あの頃は岡山で気楽な学生してたんで時間はありましたからね、いいんです。その後の『レディ・ジョーカー』、『晴子情歌』『新リア王』はいずれも分厚い単行本上下巻ってことで実は未読でした。
それを先日、何を思ったかまず『黄金を抱いて翔べ』文庫版にうっかり手を出し、さらに最悪なことに分厚い単行本『照柿』に移行し、睡眠不足の日々に陥りました。んでついでだからこの際未読の3作も、と図書館で借りてそりゃもう一気読みです。旧字体の晴子、政治云々の独り語りが続くリア王は高村ファンでも挫折した人が多いらしく、私の脳みそは果たしてついていけるんだろうか、と不安になりましたが、不思議と読みきりました。ただし、理解できてるのかどうかは別ですが。
感想はまず措くとして、そうやって高村ワールドに唐突にはまって「最近は新作出てないのか」と調べたらちょうど新刊が出るってんでニュースになってる時期だったんですね。おお、こりゃ早速図書館に予約だ、と思いながら追ってた記事に「サイン会@大阪ジュンク堂」。行かねば、行かねば!!と興奮したけど、どうしても仕事を休めない日で、「今頃サイン会・・・」と泣きながら仕事しました(苦笑)。
さて、その新刊なんですが、ただいま神戸市立図書館、139人待ちです。私は一体いつ新刊と出会えるんでしょうか。でも貧乏なので買いません、順番を待ちます。
レディ、晴子、リア王の簡単な感想。
まずレディ。一人ひとりにしっかりした人格があって重厚感抜群。合田シリーズとして前2作を読んでなくても、一個の作品として充分すぎるほど成立している。私はことあるごとに個人として、社長として決断を迫られる城山社長や、記者根性で命を賭ける根来さんに比較的どきどきと感情移入しつつも、一番魂が近いつうか、なんか、触れ合った気がするのは半田ですね。もうね、本当、ラスト近く、合田からのラブレターを受け取った半田が「歓喜に震え」るところから、合田を高級な家電に例えつつ「変態」と切捨て、最後には「小さな胸が張裂けそうか」と呼びかける段落、ここがもう最高に楽しかった。高村さんこそノリノリになりながら書いただろうな~と、にやけましたね。複雑な人間模様、差別や金融や誘拐や、難しい話のすべてが、この半田の異常性に吸い込まれてしまうくらい衝撃だった。レディは後半怒涛の結末に力技で持っていく感じですが、その勢いがまたたまらんのです。そしてヨウちゃんが「レディ!」と呼びかけた瞬間記者が凍りつく一瞬の描写、そこへふいに重なってくる旧字体での青森の空気感。思い出すだけでぞくぞくします。古本屋めぐりをして単行本買いたいですが、今の所まだ見つけられていません。

晴子。旧字体で綴られる書簡。ちょっと取っ掛かりは難しいんですが、旧字体の空気に慣れてしまえば意外にサクサク読めてしまいました。それにしても晴子一族、頭いい。いや、高村作品は主要人物が軒並み東大卒とか、数ヶ国語堪能とか、頭いい人が多いんで一種の憧憬でもって読むんですが、晴子情歌は格段でしたね。晴子自身は結局大学まで行ってませんが、時代や環境次第では余裕の東大コースなんでしょう。じゃなきゃあんな深い手紙を、正確な記憶力でもって書けるもんか。あれは超人だ!!
「淳三の言ふことがふるってゐます」というくだりが、なぜか好き。そして下巻、そろそろ栄のことに触れましょうという段落、何度読み返したか判りません。あんなに直截的でありながらもさっぱりした質感で男女の仲、それも恐らく運命的な、を描けてしまうもんなんですねえ。ただし、小説として読むから素敵なくだりであって、実際、私がもし母から「あなたを仕込んだ夜はこうだった」なんて聞かされたら女の肉感露すぎて絶望してしまうであろう。他人の恋のくだりだから読めるんだと思う。

リア王。世の中に冷め切っているようで、息子(孫)に翻弄されてリズムを狂わせている息子とひたすら語り合う父。父が語る政治については、実在の人物も多く「北海道のS」とか、なかなか意味深(これはのちに鈴木ムネオと明かされるが)。多少政治に興味があれば充分ついていけそうな気もするし、若干読者を放置プレイのような気もしますが、登場人物の多さにめまいしつつもくらいついていけば、何やら日本の戦後体制の裏側を覗いている感じです。一応私は法学部で政治学の”せ”程度にはかじってきた上、選挙について小論を書いたんで、選挙戦について語るこの書はなかなか興味深かったのが、多くの人の挫折と違ったのかもしれない。もし政治学を知らなかったら読みきれなかったかも・・・。そして、びっくりしたのが息子ですよ。晴子情歌で漁船員だった東大卒のエリート崩れがついに出家して坊主になってる!!何にびっくりしたかって、私がこのひとつきほど、唐突に高村ワールドにはまりだしたのは、ひとつには「現実逃避」なんですね。寝不足になってもいいからひとときの異世界に暮らそう、みたいな。ちょっと生活に疲れてまして。んで、自分のこれまでの生き方とか考え方の浅はかさを痛感して、いっそ出家して禅を組もうと。規律正しい生活をし、ひたすら座って透明な境地を開こう、と。そんなことを思っていた矢先に、まさかの息子出家ですよ。禅宗坊主の、本寺での生活だったり、ひたすら坐るのです、坐るのです、と繰り返される世界を、ああ、私も行きたい、と羨望の目で追うわけです。たぶん、新リア王を、そんな読み方した奴はそうそういまい(なんの自慢?)。「気合で喝ーーーーー!」と前住職とやりあうところなんかは非常に面白かった。
晴子、リア王は高村ファンでも挫折者多しということで心配だった割りにのめりこんだのでした。

ああ、早く新刊読みたいよぉ。

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