カテゴリー「よしながふみ」の記事

2010.09.16

彼は花園で夢を見る

彼は花園で夢を見る (Wings comics)
彼は花園で夢を見る (Wings comics)

よしながふみさん紹介シリーズ復活です。
彼は花園で夢を見る
時代はいつ、国はどこということはわかりません。ただ西の国、東の国、戦争とだけの舞台設定。
主人公はヴィクトール男爵。
彼を中心に、親子の愛、恋人の愛、夫婦の愛、主従の愛が描かれ、つまりは人間が人間を愛することの難しさ、そして愛を受け入れることで得られる優しさをじんわりと感じます。
愛しては対象を失い、そのたびに悲しみにくれてきた男爵は、一度は死を決意します。ともに死のうと言ってくれる同士を得、二人で城からジャンプ。
ところが、花園が二人を抱きとめてくれました。
その花園を作ったのは男爵のかつての妻。愛情を自覚したその夜に疑いを一瞬、ほんの一瞬懐いたがために永遠に失った妻。
男爵は今、ともにジャンプした楽師を養子に迎え、父として、そして祖父として、花園に囲まれて静かにうたた寝中。それはとてもとても穏やかに幸せな時間。きっと花の香りに包まれて、亡き妻の優しさを感じ、現在の家族の温かさを感じていることでしょう。
失う悲しみを乗り越えたあとのたまらない充実が男爵を覆っているのを柔らかく感じ取れます。
この本、よしながさんらしく文字数が少なく絵もこっていないのであっという間に読めてしまうのですが、いざ紹介兼感想を書こうとしたら非常に難しかったです。それはきっと、私が男爵のように人を素直に愛せず、愛されず、この物語がとてつもなく「人事」だったからのように思います。
読後の素直な感想。
うらやましい。
こんな風に自然に愛情に包まれ、包み込み生きていけたら。
うらやましい。

ふと心に渇きを覚えたら読み返したい一冊です。

*予告どおり次回からBLゾーンに突入します。なにたべと大奥は連載中でもあり、最後に。

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2010.06.04

愛すべき娘たち

よしながふみんさん紹介、第4回は「愛すべき娘たち」です。

愛すべき娘たち (Jets comics)
愛すべき娘たち (Jets comics)
白泉社 2003-12-19

・・・・・・・まだ「きのう何食べた?」が出てきません(笑)。

さて。
この「愛すべき娘たち」。
これも、あらすじや登場人物は省略します。
代わりにはなりませんが、私がこのマンガで泣いた、そしてあえて紹介するキモチを切々と(?)書いてみます。

BLではありません。その意味では読者を選びませんが、内容の濃さは、読者を選ぶ、そんな気がします。一方で、100人いれば100とおりの解釈が成り立つわけですが、100人それぞれがどこかに心揺さぶられる、きっとそんなマンガだと思います。

母と娘が軸で話が進むので、母対娘ってのが女対女、だよな~なんて人にはわりととっかかりやすいと思います。

母がいきなり娘より年下の男を再婚相手として連れてきて、彼が元ホストで今は役者見習い、母は手堅く公務員ってことで「どうみても騙されてます、本当にありが(ry)」てなスタートなんです。ですが。読み進むと、母と娘ってのが感情のぶつかり合いになってしまいがちなことをしんどく感じている「娘」の立場な読者は「あー、あるある!!」って共感すると思います。そして「母」の感情の一端を、理解できるかもしれない(私は母の立場を知らないので絶対とは言えませんが)。そして元ホストの義理父にほのぼのさせられる(笑)。

大きく分けて、主人公と母という第1話、母の再婚相手の友人と教え子という第2話、主人公と大学時代の友人のことを描いた第3話、主人公とフェミニズムな友人を描いた第4話、主人公と母と祖母を描いた第5話、と分けられます。
この5つのカテゴリの、登場人物のいずれかに、女性ならば共感してしまうと思います。母かもしれないしフェミニズムな友人かもしれないし。第2話の法学の先生(母の再婚相手の友人)と教え子のエピソードは単純にカラッと笑ってすごす方が幸せかな。考え出すと深い内容は含んでいますが。

私の場合、末期癌と宣告された母と同居して数年、女と女ってこんなに暮らしづらいものかーー、などと感じること多々なので、根底に流れる「母と娘」の物語では共感しまくりーの、第3話の、心から人を愛せず、最後に修道院を選んだ主人公の同級生にも感情移入しいの(以前、高村薫さん最新刊「太陽を曳く馬」で触れましたが、私には出家願望があります)、フェミニズムに傾倒するしかなかった男性不信の第4話でぼろぼろ泣きーの、娘を「かわいくない、かわいくない」と育てた祖母、娘を「かわいい、かわいい」と育てた母それぞれに「お母ちゃんて奥深いわーーーーー」なんて思いーの。

シリアスな話になりますが。
私はあまりこのブログでも触れたことがありませんが、兄がいます。今どこで何をしているか分からない兄が。
おそらく、母は末期症状でモルヒネなど投与されて意識がもうろとしたとき、私ではなく、兄を呼ぶと思います。そう覚悟しておかないと、いざそうなったとき辛すぎるから、あえてそう考えています。
子どもの頃から、何かにつけ兄が優先され、かわいがられてきました。思春期ってやつをすぎればそんなくだらない考えから離れられるかと思ったのですが、そうでもないようです。子ども時代に区別して育てられた記憶は、区別された側にしかわからいのです。
今、末期の母を抱えて必死に仕事を掛け持ちし、わずかな睡眠時間で生活する私よりも、どこかでのんきに暮らしているであろう兄に、母は会いたがるだろう、というのは確信に近いです。あまりに残酷だけれど、それがおそらく真実なんです。

・・・・・書いてて涙出てきました。夜勤明けにガーッとビール飲んだんで許してください。。。

たまに訪れる親戚も「お兄ちゃん探さなくていいの?」と言いますが、スルーしています。そして私は看護と介護、生活費の稼ぎ、すべてを一人で背負い、母と兄とが背負うべき業まで自分ひとりの胸にしまおうとしています。

・・・まあ、自分ひとりの胸にしまいきれず、精神科にかかりカウンセリングも受けたわけですけど。

私はもし自分が子どもを持ったら、その子をかわいいかわいいと育てると思います。自分がなされなくて悔しかった分まで。でもそれがその子にとって幸せか?というと決してそうでないこともわかっているから、私は子どもを産まない、結婚しないという選択で生きてきたし、生きていきます。

正直なところ、私はフェミニストが大嫌いです。大学時代、ジェンダー問題を卒論にしていた女性が、同和問題について「差別なんて、時間が解決する」と実に素晴らしい持論を吐いてくれた瞬間「女性差別もきっと時間が解決しますね」と嫌味かました奴ですから。

でも。
女性と女性が2人で暮らしていく。そこには「理論」の入る余地はあまりなく、感情のぶつかりあいになってしまうことを身をもって知っている私は、フェミニストではないけれど、女って生き難い生物だな~なんて思います。
母の気持ちはわかるようなわからないような。
そんな母を育てた祖母の気持ちもわかるしわからないし。
娘の気持ちはすげえわかる。
娘の友人で人を愛せない人の気持ちもすげえわかる。
フェミニスに傾倒した友人の気持ちも、その友人を見守る友人のキモチも死ぬほどわかる。

読んでいて。いちいちどの話も自分に置き換えてしまうと、しんどい。
しんどすぎて、読めなくなる。
それくらい、濃い内容が詰まっている。
でも、ほろっと温かい涙を感じる。
そんな不思議な感覚に覆われる
ああ、お母さん孝行してみようかなあ、人を愛してみようかなあ、なんて。
それが、この「愛すべき娘たち」です。

次回は「彼は花園で夢を見る」です。これの後は・・・BL一色になります(ゴクリ)。

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2010.05.31

フラワー・オブ・ライフ

よしながふみさん紹介シリーズ、第3回は「フラワー・オブ・ライフ」(全4巻、文庫は全3巻)です。

フラワー・オブ・ライフ (1) (Wings comics)
フラワー・オブ・ライフ (1) (Wings comics)

・・・出会いの作品「きのうなに食べた?」はいつ紹介するんだ、オイ。

さて。今回はあらすじ紹介はしません!キャラ紹介もしません!

主役?ああ、究極の極悪オタクにして究極のフツーの人、間島君?え、違う?
間島が主役じゃないのかーーーーーーーーーーー!!!!???
え、じゃあ、本が好きで責任感が強くて、でもちょっぴりファンシーな山根さん?
え、違う?
あれれ、じゃあぽちゃぽちゃっとした奥さんを愛してて、さらにポチャポチャポチャッッとした息子を愛してるヤセの大食いな気象予報士の三国さん?
料理が得意な・・・遅刻魔の・・・同級生のお姉ちゃんに恋しちゃった・・・ええ、どれも違う!?

あ、じゃあ、ひよこ鑑別師の花園夫妻?(←ある意味正解)。

ああ、いたね、熱血漢で、超ポジティブで、だけど実は1割の可能性で死ぬかも知れない白血病の春太郎。マンガが得意な春太郎。1割の再発の可能性を知らされていなかった、その事実を知って大人になった春太郎。そんな春太郎が大切に大切に温めてる友人の翔太くん。ぽちゃぽちゃぬいぐるみな翔太君。超癒し系な翔太君。

どうみてもオカマです、ありが(ry)なシゲルさんもいい味ですなあ。
本を貸し借りしあい、コイバナに花咲かせ、クリスマス会だ勉強会だと集まりたがり、お買い物とお喋りが大好きな高校生たちの愛すべき物語。

これはね、今現役の高校生が読んでも「ああ、あるあるー」で終わっちゃうと思うんですよ。どのキャラも非常に「ありふれた高校生」だから。でも高校時代を最低10年くらいは昔に振り返る大人が読んで「ああ、あったあったー」って涙ぐむのがいい。じわっと心に響いてくる小さな日常のエピソードの中に、命の重さだったり、友情の温かさだったり、鬼畜オタクの生態だったり(えっ?)、不倫だったりがからんで、彼らの精神的な成長を俯瞰できる大人が読むのがいい。大人だと思ってるのに、ついつい高校生の気持ちに戻って没頭してる自分に気づいちゃったりもする、そんな青春の明るく楽しく軽やかながらも忘れられない確かな毎日なんですよ、このマンガに綴られているのは。俯瞰と同調、両方を感じられるのは大人だからこその贅沢ってもんじゃないですか。

なんつーかね、私、マンガで泣くのは正直悔しいんですよ。マンガって、小説と違ってダイレクトに視覚へ訴えるだけに泣かせやすいし笑わせやすい。だから映画やドラマもそうなんですが、直感的に訴えてくる映像で泣かせるって、小説などの文字で泣かせるよりずっと楽な気がするんですね。でももちろんマンガなんて私には描けないからとてもとても大変なお仕事であることもわかってはいるんですけど。
で、この「フラワー・オブ・ライフ」のよしながさんは実に卑怯なんだ。マンガっていう手法を知り抜いて、読者を笑わせておいて、気持ちを散々リラックスさせておいて、ほのぼのさせておいて、すとんと「再発したら死亡率は1割」なんて事実を明かして泣かせるんだもの。それまで超ポジティブだった春太郎がわんわん声あげて泣くんだもん、お姉さんもつい涙腺が緩んじゃうっつうの。ずるい。悔しい。

悔しいくらい、泣いた。
呆れるほど、笑った。

そんな青春時代を思い出しながら読んだら。
悔しいくらい、泣いた。
呆れるほど、笑った。

ふっと中学や高校の青春を振り返るとき、そばにこのマンガがあると幸せかもしれない。
そんな風に思います。

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2010.05.22

絶望した!

今日は絶望にうちひしがれております。
山下達郎さんのチケットが取れませんでした(号泣)。大阪がスルーされるツアーで神戸が土日公演とあれば激戦なのはわかっていたし、元々達郎さんのライブはファンクラブ先行でほとんどの席が埋まって一般にはチケが残っていないという噂もありますし。でもわずかな望みに期待をかけてたんです、それこそ宝くじに1億円の夢を見るくらいには。
ああ、生タツロー、またいつか・・・ファンクラブ入るしかないのかなあ。。。
そういえば8/1に大阪でエレカシの単独野外があって、こちらもファンクラブ入ってない一般人には激戦必至。ああ、達郎もエレカシも駄目だったら私のショックは計り知れないよ・・・。エレカシは当たりますように!
と心底落ち込んでいるのに、母は「タツローの何がいいかわからない。聴いてて気持ち悪くなる」と言いやがりました。


ところで。
よしながふみさんの「あのひととここだけのおしゃべり」という対談集を読みました。BLを愛する腐女子対談集で濃かった(苦笑)。正直、ほとんど内容にはついていけませんでした。私なんて腐の端くれの端くれなんで。ついていけない中で、よしながさんが興味深いことをおっしゃっていました。
オタクってのは発表のあてのない論文をいっぱい抱えてるようなもんだ、って。いわゆる二次作品、パロってのを「学説」と定義してらっしゃる。なるほどーと思いました。高村薫カテゴリ、よしながふみカテゴリを作ってあれこれ喋りたがる私はオタク気質なんだなあ、と。自分をオタク気質というかマニアックな性格とは自覚していましたが、「学説」「論文」を発表したくてたまらない人、という表現に「まさにそう!」と驚きました。
んで、この対談集を読んでいて、いつか名前が出るんじゃないかと思っていたら、出ました、「やおい」という言葉の使い方について熱く語っている中で。「高○薫」と○で一部伏字にしてありますが、どうみても高村薫さんですありがとうございました。恋愛感情ではないけど、友情だけではない、友情を超えた結びつきを感じればそれは「やおい」なんだそうで。男×男に限らず、男女間でも女×女でも、友情を超えた同志的な強い結びつきがあればやおいだ!と力説している中で「たとえば高○薫さんを読んで感じる」と。やっぱり出てきたー、とにやけてしまいました。この対談集では「ハチクロ」で有名な羽海野チカさんとも対談されてるんですが、羽海野さんは高村さんのイラストを「高村薫の本」の中で描かれてますし、高村作品で二次の同人も発表されてる方なんですよね。よしながさんと羽海野さんの対談で高村さんの名前が出るかと思いましたが、出てきたのは三浦をしんさんの回でした。

加納と合田が愛した山。
私は登山に挑戦してみたい!と突然言い出しました。母が「とりあえず六甲山?」と言うので「そりゃハイキングだ(笑)」と話していたのですが、母が「高村さんの小説を実践しようとしたら登山で終わればいいけど、原発は襲撃するわスパイになるわ、大変だからやめて」って。なりません、原発襲撃もスパイもありえませんから!!「身近なところで大阪の銀行襲撃?」とか。ありえませんから!!!!
でも少しずつ体力つけて登山は挑戦してみたいな。子どもの頃、夢だったんですよね、雪山登山。加納が見た風景をいつか私も見てみたい。
というか、70超えて癌と闘いながら、娘の腐った話に付き合わされる母が不憫だorz

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2010.05.21

こどもの体温

よしながふみさん紹介の第2回は「こどもの体温」です。

こどもの体温 (Wings comics)
こどもの体温 (Wings comics)

これもBLではないのです、ないのですが、一般の人が読めるギリのラインらしいです。ちょこっとだけ、男の人が男の人に思い寄せるエピソードがあります。
これを第2回に持ってきたのは、1巻完結でしかもかなりさらっと短時間で読めるのに、よしながさんの特長が実によく現れているように思うので、ぜひよしなが入門として読んで頂きたいからです。

幼少時に母親を亡くした少年(中学生)と父親(自由業。おそらく文筆家)を中心に、少年の同級生、亡き母(妻)の両親、父親の高校時代の後輩たちの関係などが描かれます。
いきなり第1話は少年(当時中学1年生)が同級生の女の子を妊娠させたかも!という衝撃の告白に始まります。結局妊娠はしていなかったのですが、これをきっかけに少年と父親はさらに親子の信頼関係を深め、同級生の女の子も無関心だった自分の家族に目を向けます。
第2話は少年のおじいちゃんとおばあちゃんの話。めっちゃ激しいバトルを婿の前で繰り広げるパワフルな祖父母なんですが、ほんとのとこやっぱ長い連れ合いだけに、ねえ、仲良しなんだよねえ、って感じでほのぼの。そして亡くなった娘がいとしいんだよねえというキュッと胸が鳴るエピソード。
第3話は父親の後輩3人が登山の帰りに事故に合い、1人が死亡、残りのうち1人が半身不随、運転していた1人が半身不随になった友人を引き取って世話をする悲劇的な話。父親は「贖罪とはいえやりすぎだ」と運転していた後輩に言います。同居している2人、半身不随になった方は決して心を開こうとしません。相手の名前すら呼びません。しかし1年が経ち、亡くなった友人の墓を訪れた際に、残された2人ともが死んでしまった友人を愛していたことを認識しあい、黙って抱きしめあう・・・(ここがBL無理な人には無理らしいですが、すげぇいい場面なんですっ!!!ここは下世話な愛で抱きしめあってるんじゃなく、同士として認め合って抱きしめあってるんですよっ!なんせ山岳部の山男ですからっっっ!!)。
第4話。指先からつま先まで常にピッ、ピッ、と神経が行き届いているバレエ王子(笑)が、離婚して自分を置いていった母との関係を取り戻す一歩を踏み出すお話。バレエのセンスは抜群なのに胸に訴える力がないバレエ王子、主役の少年と父親が手をつないで買い物しているのと遭遇し「自分も母親の手を握れるかな」と考えます。世界的に活躍しているバレエダンサーである母親と、手をつなげる、変な照れは捨てた、と信じられたとき、彼の本当の才能が開花します。
第5話。少年は中学3年生になっています。同級生の男子と「オレなんか初体験中1だもんね」みたいに話しちゃって、それを当の相手(第1話で妊娠騒動になった女の子)に聞かれちゃって「オレのバカバカバカ!!」って悶えるお話。でも女の子も「修学旅行で喋っちゃったw」なんてケロっとしてて、2人はさっぱりときれいにお別れし、それぞれの道を見つけます。成長したなあ、少年!

最後のオマケ。
まだまだちびっこだったころの少年。しかられてわんわん泣いてます。お父さん、理由があるから叱ったのだと拳骨くれたらしいです。少年は気の強そうな眼差しで目にいっぱい涙をためながらもお父さんをじっと見つめて必死に泣き止もうとします。お父さん「もうしないと約束できるか?」少年「うん」でむぎゅーーーと抱きしめてもらいます。父と子だーーーー!!!素敵だーーーーーー(絶叫)

なにせコミック自体がさらっとしてるので本当はあらすじも書きたくないくらいなんですが、一応。

さて、良さが詰まってる、と言う”良さ”を文字にするのはさらに野暮なんですが、一応。
・非常にシンプルなコマ割り、背景の省略などの簡素化で見た目に疲れない。
・でも影(トーン)はふんだんに使われていてそれがシンプルな描線と相俟って印象的な絵。
・表情だけ、料理だけ、風景だけ、といったコマで「行間を読ませる」”間”が生まれているので人物の感情の変化をたくさんたくさんそりゃあ好きなだけ膨らませることができる。
・美味そうな料理シーン。
・時間や場面の唐突な変化(第2話で時間が、第3話で舞台がまったく第1話と異なり、第4話で再び中学生の少年中心に戻る)でそれぞれの話が際立つ。第4話は話の中でも去っていった母親とバレエ王子の現代と過去が交錯します。
・真面目顔とコミカル顔の使い分けがまたナイス。特に第3話の悲劇を重くしっぱなしにしないコミカル顔は力強ささえ感じる不思議!
・作者自身の噴出しの外の突っ込み文字にたまらないおかしみがある。
・セリフ、地の文、作者突っ込みどれも少ないのに、読み終えたらとても充実したふっくらした思いが残る。

などなど。
西洋骨董洋菓子店でも書きましたが、「いいもの読んだなー」というとてもいい気分になれるのです。ちょっとした空き時間で読めてしまうのでよしながさんをご存知ない方はぜひ。

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2010.05.16

西洋骨董洋菓子店

よしながふみさんの作品について語るシリーズ(?)第1回は、本当は、最初の出会いだった「きのう何食べた?」のつもりだったのですが、急遽、「西洋骨董洋菓子店」全4巻で。

西洋骨董洋菓子店 (1) (Wings comics)
西洋骨董洋菓子店 (1) (Wings comics)

と言いますのも、図書館で「愛がなくても喰ってゆけます」を借りていたので、それを返却しようと今日は仕事に持って行ってて、それを見たバイトの男の子が「骨董屋の人だ!」と食いついてきて、当分2人で「魔性のゲイwww雨の中で踊るとかwww」と盛り上がったので。高村薫さんもそうなんですが、私はあまり周りに同じ趣味の人がいなく、よしながさんについても、まさか盛り上がって語り合える人がこんな身近にいたなんて!ってことで楽しかったので、急遽最初の紹介に持ってきました。

***おもいっくそネタバレがあるのでネタバレが嫌な人は読まないでください。(って、wikiなんかにあらすじは書かれてますけどね)

これはドラマにもなったのでご存知の方もあるかと思います。
男ばかりのケーキ屋さんのお話。ゲイは出てくるし、キス、ハグ、それ以上のシーンもあるにはありますが、BLではありません。おそらく大抵の方は大丈夫です。

オーナー兼販売の橘を軸に、魔性のゲイwことパティシエの小野、パティシエ見習いのエイジ、販売(手伝い)の千影、この4人が働く、正午から深夜2時半までイートインもできるケーキ屋さんを舞台に、彼らはもちろん、お客さんたちの様々な人間模様が描かれます。
橘は背も高く男前、5か国語を操り、東大在学中に外交官試験、司法試験に受かっちゃうスーパーマンな上、財閥系のおぼっちゃまというとんでも設定な人。実は高校卒業の日、小野を「死ね、ホモ」とこっぴどく振った張本人。バリバリの営業マンだったのを退職し、ケーキ屋を開店したものの、本人は酒とアンキモを愛する辛党で、ケーキを食べても「砂糖の味しかしない」という・・・。でもケーキ屋さんを開いたのには実は深い深いわけがあるのです。
パティシエの小野は、天才と言われる才能がありながら、行く先々で首になり長続きしないで失業中のところ、橘の父によってスカウトされてきます。なんで長続きしないって、魔性のゲイwだから。職場で修羅場が繰り広げられては首になる、の繰り返し。「アンティーク」オープン当初も、販売員を雇ってはみたものの、「厨房は一瞬にして情事の舞台に」(橘談)なったため、小野好みでない販売員募集中。
そこへやってきたのが元プロボクサーのエイジ。幸い小野好みでなかったため修羅場回避と即採用、のはずが販売でなくパティシエ見習いに。小野の作ったケーキのあまりのうまさに「おケーキ様様」と雄雄しく叫ぶほどのケーキ好きで、小野が彼の味覚のセンスを見出したため。結局販売はオーナーの橘自ら務めることに。
長身の橘よりさらにデカイ、スーツとサングラスがビシッと似合う男、千影。おぼっちゃま橘のお目付けとしてくっついているのですが、、、商品名は覚えられない、お皿を複数持ったらテーブルに置く順番がわからなくなる、一度に注文されると混乱する、そもそもギャルソンエプロンの紐が結べない、という恐ろしく不器用な男(初登場時、黒塗りのベンツで現れたはいいが、ぴたっと店の前で停止できず行き過ぎた)。お目付けのはずが器用貧乏な橘に何から何まで世話されているという愛すべきゆるキャラ。雨の中踊りだした小野にズキューンとハートを撃ちぬかれ、あやうく魔性のゲイの餌食に。ところが酔った振りで誘っている小野に「酔っているところを襲うなんて!!」みたいなとんちんかんをかましてしまう奴です。ちなみに未遂です、ヤッてません。

とまあこの4人が当然主役なわけですが、それぞれに暗い過去、重い過去、悩み、あるわけですよ。橘は9歳のときに誘拐されたという経験を持ち、そのとき毎日ケーキを食わされていたことからケーキが食えなくなったトラウマがあり、今も夢にうなされる。小野は中学のとき、担任と母親が不倫している現場を見てしまったトラウマ。エイジはボクシングを続けたくてたまらないのに、網膜はく離という厳しい現実で引退。千影は・・・この人、悩みあるんかな(苦笑)。千影の母親は夫からDVを受けていて、それを見かねた橘の母親が家政婦として母子をひきとったのが橘と千影のつきあいの始まり。千影だけが子持ちですが、未婚で、子どもはたまに会う程度。でもねえ。。。この子どもとの会話がまた、ほっとなごむのよ。ほんわか素敵なのよ。彼は最初から最後まで超癒しキャラです。
「アンティーク」にやってくるお客さんたちも、負けっぱなしだけどボクシングが好きでたまらないボクサー、窓際に追いやられて閑職22年の末退職した元エリートなど何らかの”負”を背負った人たちなのですが、「アンティーク」で救われ、新たなスタートを切り、とエピソードが盛り込まれています。

店員もお客さんもそうしてそれぞれに過去と現実があるのですが、これが、ギャグを盛り込みすぎくらい盛り込みながら話が進むので、気持ちは決して重くならない、でも胸に何かが響いてくる、そんな進行です。なので読後感は実に軽く爽やか。軽いんだけども「いいもの読んだなー」という充実感が心地よく残る。
例えば、エイジは孤児で施設育ちなのですが、ボクシングジムの会長と養子縁組していて・・・という過去が明かされたと思ったら、他のボクサーが「甘い匂いハァハァ」と夜中に爆睡中のエイジを囲んでいたり(ボクサーは体重管理が厳しいからね~)。必ず、重い気分を引きずらない工夫が随所になされているのです。

小野は、元彼に危うく右手をつぶされそうになって、猛烈に、パティシエの仕事が大事だと自覚する。稼ぐ手段としか考えてこなかった小野の一大転機なんですが、その後のシーンで、パリ本場のケーキをバクバク食うエイジを見ながら「経費で落ちないかな」なんて考えていたりする(ボーナスでおごると約束していた。エイジの勉強になるから)。

重さと軽さ、緊張と弛緩、複雑と単純、思考と脱力、読み手を自在に独特のペースに載せながらどんどん話は深部へと進んでいきます。

「アンティーク」のケーキを食べた後殺されたと思われる子どもが発見されたことから、橘は自分の過去を誘拐された子どもに投影し、警察に協力、ついに自分で誘拐犯を見つけてしまいます。ところが、その犯人は20代の若者で、もちろん10数年前に自分を誘拐した犯人ではありません。そのことでどれほどの落胆が橘を襲ったかは想像を絶します。そして、衝撃の終わりへとつながっていきます。おそらく橘を誘拐した犯人と思われる客にケーキを売り、それを穏やかなまなざしで見送る橘。このシーンこそ、よしながさんの「間」、持ち味がいかんなく発揮されています。2ページ見開きでひとコマ、セリフはありません。普通のお客様と同じように橘はありがとうございましたと見送っているだけ。だけなんですが、我々は考えざるを得ない。橘は気づいたのか?気づいて見送ったのか?気づかなかったけれども、今、過去の誘拐について心の整理がついてきたのか?その穏やかな表情の下で一体何を考えている!?と。それまでの橘が常に「熱い男」だっただけに、この穏やかさが効いてくるのです。冴えるのです。そして、その穏やかな日の後もやはり悪夢にうなされるのですが、その気持ちを引きずらず「さあケーキ売るぞ!」と新しい一歩を踏み出します。
もう、橘には、かつて自分をさらい、ケーキを食わせた誘拐犯を見つけるためにケーキ屋を営む理由はなくなっているのですが、今日も彼はケーキを売るのです。

・・・うわーー、めちゃ長くなってしもうた(汗)。

とにかく、よく言われるよしながさんの持ち味である「間」、シンプルな描線が活きる影の使い方、シリアス顔とコミカル顔の使い分け、真剣と冗談の交錯、よく練られた構成、そしてゲイw、と良さがぎゅっと凝縮されたコミックです。ぜひ読んでみてください。

*予告。
今後、これほど長い文章にならないように心がけますが、一番好きな作品「ジェラールとジャック」だけは、複数回にわけるほどの大長文になる可能性が大きいです。ジェラジャはいい場面が多すぎて。

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2010.05.13

ひとやすみ

高村薫さんのレディ・ジョーカー文庫がいよいよ読み終わりそうです。長かった、長かった・・・(まだ終わってないが)。5月は後半、とくに最終週が仕事3つばっちり重なったりでえぐい状況なんで、6月は3連休くらい申請しちゃおうかな~とか考えています。部屋を掃除して。加納への愛を訴えるブログ作って。のどかな休日が欲しい・・・・・・(切実)。というわけで加納ファンブログは6月公開予定デス。

高村さんの「新冷血」の第2回、図書館で借りて読みました。これで第5回まで無事制覇です。ほうほう、第3回で唐突に出てきたトダはこうやって登場したわけね。
高村さんらしいこってり感が2回、3回あたりは濃く出ている気がします。靴一足になぜそこまで執拗に描写する!?みたいな(笑)。第1回で中学生の女の子に焦点を当てて読者を驚かせ、第2回から高村節スパーク。会ってもうもやもやしてる2人が無計画にATMを襲ってしまうまでがわずか5回目に描かれてる、すごいスピード感です。ただ、本題が必ずしもATM襲撃ではなく、その先の破綻、だろうと考えるとどきどきします。

さて。話は変わりますが。私が先日コンプリートした作家さんというのはよしながふみさんです。きっかけは「聖☆おにいさん」の4巻発売予定を見るためにモーニングのサイトにアクセスしたとき目に入ってきた「きのう何食べた?」という人をなめたような不思議なタイトルとほんわかした絵柄。(聖☆おにいさんは間もなく第5巻が発売ですねっ!)
興味を引かれてネカフェで1巻を読んでみて、私にどんぴしゃでフィットしたので古本屋をめぐること数件、頑張ってそろえた「きのう何食べた?」。現在は3巻まで既刊、連載中ですが月イチ連載なんで年イチくらいしか単行本が出ません。
3巻と連載を読んでみると、くすりと笑ってしまうエッセンスの中に、真剣に考えさせられる<何か>がある、結構いい漫画なんですよ。そして次に買ったのが「大奥」。これは揃えるのに時間も労力もかかりましたよ。いえ、新刊で買うならそのへんの本屋さんに飛び込めばあるんです。が、何せ貧乏なんで。
こちらは嵐の二宮君出演で映画化されるのでちょっと有名かな?
この「大奥」で完全にヤラレました。男女逆転大奥。将軍が女性で仕える大奥は美男ズラーリ。奇想天外な大奥なんですが、これが、すごく練られてるんですよ。第1巻でのちょっとした一コマの一言が第4巻あたりでぐっと生きてきたり。男女逆転の経緯も、あの忠臣蔵の事件すらも、見事に描ききっています。男女逆転という異常性の中での美しい純愛も胸がズキンとします。とにかく読んでいてたまらなく感情移入してしまい、ときに泣いてしまうのです。
正直言うと、絵柄は決して私の好みではありません。私がはずれなしと思っている好きな漫画家に浦澤直樹さんがいますが、この人の絵とは正反対に位置するくらいのあっさりと言っていいでしょう。絵だけでなくコマやトーンの使い方なんかも全然違います。それでも、よしながさんは私の心にドンピシャだった。
つうわけで、何食べ、大奥からだだだだっと全部そろえるまでほんの数ヶ月のできごとでした・・・。
今、私の中で好きな漫画ベスト3は1-よしながふみ全部、2-へうげもの、3-聖☆おにいさんと彼岸島。聖☆おにいさんはあっけなく一位から陥落です。5巻買いますけどね。そういやへうげものも濃い絵柄だなあ。

以前、私はBL(ホモ漫画ね)を数冊持っている、と白状しましたが、そのうち数冊を、バイト先の後輩にあげました(鬼畜!)。本当に面白いと思えたのは「窮鼠はチーズの夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」by水城せとなさんだけだったので、その2冊だけ残しました。
が。今、よしながさんにはまったおかげで、この人がまさかのBL作家だったおかげで、我が家のBL所蔵数が膨れ上がりました・・・orz
ただ、BLと侮るなかれ。やはり微妙な複線が張られていたり、心の機微がうまく描かれていたり、ぞくっとするほど話に深みがあったり、読ませる作家さんです。そして考えさせる作家さんです。

なので、恥を捨て去り、よしながふみさんの作品について感想をちびちび述べていこう、と思います。ただし、一部の漫画は本当にエロいので、BLが苦手な方はこれからしばらくの間、当ブログのよしながふみカテゴリはご注意を。(エロシーンの説明なんかしませんから読んでも大丈夫ですけどね)

さて、仮眠して今日も夜勤だぞっと。

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